歯科放射線と脳腫瘍
>先日(7/10/06)の毎日新聞に脳腫瘍について国立がんセンター中央病院の野村部長
>(脳神経外科)が調査したところ;
>最近15年間で約3倍に増えており電磁波や歯科医でのレントゲン撮影、騒音の
>増加等が影響している....」という報告が日本癌学会において発表され、これが
>毎日新聞に掲載されました。...
医科歯科大学にも問い合わせの電話が殺到したそうです.以下に,問い合わせに対
する佐々木教授(歯科放射線)の御回答を御紹介します.
不均等な放射線被曝によって生じると考えられる全ての悪性腫瘍と遺伝的影響を惹起
するのに必要な線量を,全身の均等被曝線量に換算した値を実効線量当量という.
この実効線量当量を全国民で合計した値を【集団実効線量当量】という.
この値をさらに国民全人口で除算した値を【一人当たりの平均実効線量当量】という.
この集団実効線量当量ならびに一人当たりの平均実効線量当量は,様々な部位の被曝
履歴と各臓器の悪性腫瘍の発生感受性を詳細に記録検討した結果に導出される数値で
ある.
区分 人・Sv/年 mSv/人/年 %
一般X線診断(1986) 179,000 1.44 61.7
X線CT診断(1989) 99,000 0.80 34.1
核医学診断 (1982) 4,200 0.033 1.4
胃集団検診 (1991) 4,000 0.033 1.4
胸部集団検診(1991) 1,200 0.009 0.4
歯科X線診断(1989) 2,900 0.023 1.0
合計 290.300 2.34 100
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(データは 放射線科学 38 (9) : 317-324, 1995 より引用)
Los Angels の腫瘍登録における患者・対照研究による疫学調査では,耳下腺腫瘍と
脳の髄膜腫瘍の発生頻度が医療目的の被曝によって有意に増加し,特に20歳以下の
年齢での全顎口内法撮影と強い相関がある.
この調査対象は主に 1950 年代に被曝した人々で,現行のX線撮影よりかなり大きな
線量を被曝しているが,不用意なX線撮影が広く行われてしまうとそれなりの影響が
生じうることになることを示唆する報告として受けとめる必要がある.
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(J Natl Cancer Inst 80 : 943-949, 1988)
放射線学的には、顎顔面領域の放射線被曝により、脳腫瘍、とくにmeningioma
や耳下腺腫瘍の発生率に非常に高い相関が見られた、というdataがあります。
見過ごせないのは、この顎顔面領域の放射線の中で、歯科での撮影に特異的に
高い相関が得られた、という事実です。ただしこれはUSAでの研究で、また
放射線被曝による腫瘍発現には、約20年以上の潜伏期があるため、1950年代の
被爆が1980年代の研究となって出てきているという事情があります。この時代
の歯科放射線撮影は、現在と比較にならないほど線量が大きく、またフィルム
管理も杜撰だったため、このdataをそのまま現在に外挿するのは適当でありま
せん。しかし、放射線学者にとっては、放射線の被曝が何らかの新生物発現な
どの原因になることはむしろ当然で、今更驚くには値しない、という感が強い
ことも事実です。
私たち医療従事者は常に「本当に必要な撮影か否か」を
絶えず問い直し、患者さんの為、
被曝線量軽減へ努力する事が必要です。
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